「やってみたい」が1年たっても形にならない。思い切って作ったら外れた——新商品・新サービスのつまずきは、たいてい同じ場所で起きます。「良さそう」と「お金を払って選ばれる」の混同です。この記事では、アイデアではなくお客様の困りごとから始めて、1枚の企画書に落とすまでをChatGPTと進めます。
この記事で分かること
- 「面白そう」に騙されない、反応の3段階(興味・検討・行動)
- アイデアの前に「困りごと」を集めて問題カードにする手順
- 1つの困りごとに3つの解決案を出して、同じ条件で比べる方法
- 9項目の一枚企画書と、「何人で成り立つか」の簡易試算

01「良さそう」と「お金を払って選ばれる」は違う
新しい案を話すと「面白そう」「ぜひやって」と好意的な反応が返ってきます。でも、その人が日時を確認し、予定を空け、料金を払って来てくれるかは別の話。アンケートで「参加したい」と答えた10人が、募集開始後に1人も予約しないこともあります。反応は3段階で区別します。
02アイデアの前に、お客様の困りごとを集める
いきなりChatGPT(対話型のAIサービス)に「花屋の新サービスを10個出して」と頼むと、定期便・ワークショップ・サブスクといった一般的な案が並びます。間違いではありませんが、自店のお客様が今困っていることと結びついていなければ、実行する理由がありません。集めるのは、店頭で何度も聞かれる質問、購入を迷ってやめた理由、「こういうものはないですか」の声。花店の例です。
| お客様の言葉 | 場面 | 今の代わりの行動 | 店が確認した事実 |
|---|---|---|---|
| 家でうまく飾れない | 自宅用の花を購入 | 短く切って1つの花瓶へ | 飾り方の質問が月に複数回 |
| 初心者向け教室はないか | 店頭で相談 | 動画を見て試している | 3人から質問があった |
| 平日は仕事で難しい | 日時を質問 | 休日に別の教室を探す | 土日の希望が2件 |
声が貯まったら、ChatGPTに似た声をまとめさせ、1枚の「問題カード」に絞ります。
コピーして使えます
以下は、小さな店で受けた質問と接客メモです。 個人情報は削除してあります。 お客様の言葉を、似た困りごとごとにまとめてください。 各グループについて、次を整理してください。 1. お客様が困る場面 2. お客様が実際に言った言葉 3. 今している代わりの行動 4. 店が確認できた事実 5. まだ確認できていない仮説 6. 次にお客様へ聞く1問 ルール: - 存在しない発言や人数を作らない - 1件の声を全顧客の意見にしない - 解決策を先に決めない - 分からないことは「要確認」と書く [接客メモを貼る]
【問題カード】(花店の例) 誰が: 花を飾りたいが、経験の少ない近隣のお客様 どんな場面で: 自宅用の花を選び、食卓へ飾るとき 何に困っている: 花の長さ、組み合わせ、花器との合わせ方が分からない 今はどうしている: 1輪だけ買う、動画を見る、店員へその都度聞く 確認できたこと: 飾り方や初心者向け教室の質問が複数あった まだ分からないこと: 希望曜日、払える金額、教室形式が本当に良いか 件数・期間: 直近1か月の接客メモで関連する声が7件
対象を「花が好きな人」と広げないこと。困る場面まで絞ると、作るものと聞くことが具体的になります。
031つの困りごとに、3つの解決案を出す
困りごとは1つでも、解決方法は1つではありません。花店は「家でうまく飾れない」に対して、案A: 少人数の季節花レッスン(4人・60分)/案B: 花材キット+飾り方カード/案C: 15分の花選び相談の3案を作りました。ChatGPTには派手な案を競わせず、同じ条件で比べさせます。
コピーして使えます
次の困りごとに対して、当店で試せる解決案を3つ出してください。 [問題カードを貼る] [店の条件] - 店主とスタッフ一人 - 平日15時から17時が比較的空いている - 追加で使える予算は1万円以内 - 7日以内に反応を確認したい - 大量の専用在庫は持たない (…自分の店の条件に置き換える) 各案を、次の項目で比べてください。 1. 困りごとへの近さ 2. 7日以内に試せるか 3. 最初に必要な費用 4. 店主とスタッフの作業時間 5. お客様が実際に行動したか確認できる方法 6. 失敗した場合に残る在庫や負担 7. 続ける場合の広げ方 最も良い案を勝手に決めず、店主が選ぶための質問を1問ずつしてください。
花店が案Aを選んだ理由は「店主の説明力と空き時間を使え、4人分なら大きな投資が不要」だから。案BやCが悪いのではなく、案Aで需要が確認できたら後から広げられる——この順番が小さく試すということです。
041文に磨いてから、一枚企画書にする
企画を1文で説明できなければ、POPも予約ページもぼやけます。型はこれです。
[どんな人]が、[困る場面]で、[できるようになること]を、 [この店ならではの方法]で実現する[商品・サービス]。 → 花を家に飾りたいけれど選び方が分からない初心者が、 近所の花店で季節の花に触れながら、60分で食卓用の 小さなアレンジを自分で作れる少人数レッスン。
「季節の花を楽しむ素敵な時間」では誰の何が変わるか分かりません。「初心者」「食卓用」「60分」「少人数」まで入ると、お客様が自分に向くか判断できます。1文ができたら、9項目の一枚企画書へ。
【新商品・新サービス 一枚企画書】(花店の初稿) 仮の名前: はじめての季節花レッスン 対象: 花を飾りたいが、選び方や長さの調整に自信がない初心者 困る場面: 自宅用の花を買っても、食卓にうまく飾れない 変化: 季節の花を選び、小さな花器へ自分で飾れるようになる 内容: 最大4人、60分、店頭で実際に作る。作品は持ち帰り この店の理由: 普段販売している季節の生花を、店主から直接学べる 価格案: 一人3,300円。花材・消耗品を含む 必要なもの: 4人分の花材、はさみ、机、準備と片付け 確かめたいこと: 7日間で、料金を確認した上で3人以上が予約するか

05価格は「相場」だけで決めない ── 何人で成り立つかを先に知る
「似た教室が3,000円だからうちも3,000円」では、店に何が残るか分かりません。試験の前に、簡易試算をひとつ。
この「小さく試して確かめる」姿勢は、国の調査から見ても伸びしろです。2025年版小規模企業白書によると、新しい製品・サービスの開発(プロダクト・イノベーション)に「取り組んだ」小規模事業者は1割程度にとどまる一方、取り組んだ事業者の方が新規顧客数の見通しを「増加」と答えた割合が高い傾向が示されています。[1] 大量生産はできなくても、お客様の声に細かく応えて小さく試せるのは、小さな店の強みなのです。
06まとめ ── 今週の60分でやること
- 接客メモから困りごとを集めて、問題カードを1枚作る
- 1つの困りごとに解決案を3つ出し、同じ条件で比べる
- 選んだ案を「誰に・何が変わり・なぜこの店か」の1文にする
- 9項目の一枚企画書を書く(完成版ではなく初稿)
- 変動費と共通費から「何人で成り立つか」を計算し、試験の基準にする
ChatGPTに任せないことも明確です。需要の保証、原価と価格の決定、競合情報の想像、他店の文章・画像の真似。ここまでで企画は1枚になりました。次の記事では、この企画を7日間で実際に試す方法——POPの作り方、アンケートの質問設計、予約販売・体験会などの試験形式を扱います。
[1] 中小企業庁「2025年版 小規模企業白書」第2部第1章第1節(2026年7月確認)。プロダクト・イノベーション(新しい又は改善した製品・サービスの開発)に「取り組んだ」と回答した小規模事業者は1割程度(第2-1-25図)。取り組んだ事業者は、取り組んでいない事業者より新規顧客数の見通しを「増加」と回答した割合が高い(第2-1-26図)。いずれも可能性の示唆であり、因果関係を断定するものではありません。chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/shokibo/b2_1_1.html
