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クレーム対応は、AIに下書きさせる前に順番がある ── 先に止める、確かめる、決める

閉店後に、厳しいご意見が届く。読み返すたびに気持ちが重くなる。早く終わらせたくて、すぐに返信したくなります。

その気持ちのまま、ChatGPTに文章を整えてもらうこともできます。実際、ChatGPTは怒りのこもった長い文章を整理して、落ち着いた下書きを作るのが得意です。ただ、順番があります。この記事は、その順番の話です。

この記事で分かること

  1. クレームが届いたとき、最初にやること
  2. 対応の6つの手順(AIが登場するのは5番目)
  3. AIに決めさせてはいけない6つのこと
  4. 一人で抱えないための考え方と、記録の残し方
閉店後の店のカウンター。伏せて置かれたスマートフォン、閉じたノートとペン、湯気の消えたお茶がランプの光に照らされている
すぐに返さない。まず手を止める。ここから始めます

01厳しい言葉が届いた夜に、やってはいけないこと

最初にやってはいけないことを、3つだけ挙げます。

  • すぐに返信する ── 感情が動いているときの文章は、後で読むと必ず何か足りません
  • 一人で抱え込む ── 判断も、気持ちの負担も、一人で持たないほうがいい
  • AIに丸ごと任せる ── 文章は作れても、方針は決められません

まず、手を止めます。その日のうちに返さなくても、たいていのことは間に合います。

02順番を間違えなければ、AIは役に立つ

対応の手順は6つです。ChatGPTが登場するのは、5番目です。

  1. 自動返信や販促メッセージを、いったん止める
    怒っている方へ、いつもの案内やキャンペーンの連絡が届くと、火に油を注ぎます。まずここを止めます。
  2. 事実を確認する
    予約記録、会計、店内の記録、担当者の記憶。何が起きたのかを、こちら側の資料で確かめます。
  3. 公開返信か、非公開の連絡か、専門家へ相談かを決める
    どの場で答えるかを先に決めます。場所を間違えると、内容が正しくても伝わりません。
  4. 店主が対応方針を決める
    謝るのか、事実を説明するのか、返金や交換をするのか。ここは人が決めます。
  5. その方針に沿って、ChatGPTへ下書きを頼む
    決まった方針を伝えて、言葉づかいを整えてもらいます。ここが初めてのAIの出番です。
  6. 人が最終確認して送る
    事実に合っているか、約束していないことを書いていないか。最後は必ず目を通します。

①から④までは、人にしかできません。AIが手伝えるのは、決まったことを、読みやすい言葉にすることだけです。

03国のマニュアルも「まず事実確認」から

この順番は、店の慣習の話ではありません。厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」にも、同じ考え方が示されています。[1]

マニュアルは、判断の尺度として2つの観点を挙げています。

観点 公式の説明
① 要求内容に妥当性はあるか 顧客等の主張に関して、まずは事実関係、因果関係を確認し、自社に過失がないか、根拠のある要求かを確認して判断する
② 手段・態様が社会通念に照らして相当か 長時間に及ぶクレームは相当性を欠く場合が多い。要求内容に妥当性がある場合でも、言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的、性的である場合は不相当と考えられる

注目したいのは①です。公式にも「まずは事実関係、因果関係を確認し」とあります。[1] 文章を整えるのは、そのあとの作業だということです。

また、要求に妥当性がある場合(たとえば商品に瑕疵があった場合)は、謝罪とともに交換・返金に応じることは妥当だとも書かれています。[1] すべてを「悪質」と見なす話ではありません。正当なご意見と、そうでないものを、感情ではなく手順で分けるためのものです。

このマニュアルは、従業員を守る観点で作られた企業向けの資料です。一人で店を営む場合にそのまま当てはまるわけではありませんが、判断の軸と手順は、小さな店でも十分に使えます。なお、個別の事案が違法かどうか、カスタマーハラスメントに当たるかどうかの判断は、専門家や所管の窓口にご相談ください。

04AIに決めさせてはいけない6つ

次の内容が含まれるときは、下書きを頼む前に、必ず店主や責任者が確認します。

  • 安全や健康に関わること
  • 個人情報や写真に関わること
  • 返金、補償、契約に関わること
  • 差別、暴力、脅迫などに関わること
  • 事実関係が食い違っていること
  • 法律や専門家の判断が必要なこと

共通しているのは、間違えたときに取り返しがつきにくいことです。文章がうまいかどうかとは、まったく別の問題になります。分野ごとの線引きはこちらの記事にもまとめています。

05一人で抱えない ── これは店主自身にも当てはまる

厚労省のマニュアルには、対応の仕方についてこう書かれています。「顧客等への対応は、基本的には複数名で対応し、対応者を一人にさせない」[1]

さらに、カスタマーハラスメントに該当するかどうかに関わらず、従業員の就業環境が害され就業に支障が生じるようであれば、企業として相談に応じる、複数名で対応する等の措置が必要だとしています。[1] スタッフがいる店なら、対応を一人に背負わせないでください。

では、店主一人の店はどうするか。「その場で答えない」を型にします。

  • その場で結論を出さない ── 「確認して、あらためてご連絡します」と伝える
  • 相談先を先に決めておく ── 税理士、社労士、保健所、商工会、消費生活センターなど
  • 深刻な場合は迷わない ── マニュアルは、暴力行為は直ちに該当と判断でき、犯罪に該当しうるとし、深刻な場合は警備員等と連携して直ちに警察へ通報、対応者の安全確保を優先するとしています[1]

06ChatGPTへの頼み方(責任を決めさせない書き方)

方針が決まったら、下書きを頼みます。ポイントは、判断させない条件を先に書くことです。

コピーして使えます

お客様からいただいたご意見への、返信案を作ります。

【あなたにしてほしくないこと】
・誰に責任があるかを判断しないでください
・返金や補償が必要かどうかを決めないでください
・健康や安全について、どう対応すべきかを決めないでください
・私が伝えていない事実を、推測で補わないでください

【店が確認した事実】
[こちらの記録で確認できたことだけを書く]

【店が決めた対応方針】
[謝罪する/事実を説明する/交換する など、決めたことを書く]

【お客様のご意見】
[いただいた内容を貼る。個人が特定できる情報は外す]

【お願いしたいこと】
1. お客様が訴えている事実を、箇条書きで整理してください
2. 上の「対応方針」に沿った返信文の案を作ってください
3. 事実が確認できていない部分があれば、指摘してください

丁寧で落ち着いた言葉づかいにしてください。
言い訳がましい説明や、過剰な謝罪は避けてください。

できあがった文章は、そのまま送りません。約束していないことが書かれていないか、事実と合っているかを必ず確かめます。なお、公開の口コミへ返信する場合の書き方は口コミ返信の記事にまとめています。

07まとめ ── 記録は、店の財産になる

店の棚に立てたバインダー。インデックスで区切られた記録用紙が綴じられ、脇に次の1枚とペンが置かれている
1件ずつ残しておくと、次に同じことが起きたとき迷いません

最後に、厚労省のマニュアルにあるこの1文を紹介します。「過去に起こった事案を記録に残し、対応案を蓄積させれば企業の財産ともなり得る」[1]

つらい出来事でも、記録に残しておけば、次に同じことが起きたときの判断が早くなります。日付・内容・確認した事実・決めた方針・結果を、1件1枚で十分です。

  • すぐ返さない ── まず手を止める
  • 順番を守る ── 止める→確かめる→どこで答えるか→方針を決める→下書き→最終確認
  • AIは5番目だけ ── 決まったことを言葉にする役
  • 6つはAIに決めさせない ── 安全・個人情報・返金補償・差別暴力・事実の食い違い・法律
  • 一人で抱えない ── 「その場で答えない」を型にする

今日やることは1つです。まだクレームが来ていない今のうちに、相談先の連絡先を1枚にまとめておいてください。いざというとき、探す時間がいちばん惜しくなります。

[1] 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(カスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会/2026年7月24日確認)。同マニュアルは、企業や業界により対応方法・基準が異なるため明確な定義は難しいとしたうえで、現場では「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」がカスタマーハラスメントと考えられているとしている。判断の尺度として、①顧客等の要求内容に妥当性はあるか(顧客等の主張に関して、まずは事実関係、因果関係を確認し、自社に過失がないか、または根拠のある要求がなされているかを確認する)、②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲か(長時間に及ぶクレームは相当性を欠く場合が多く、暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的、性的な言動は不相当と考えられる)の2つの観点を挙げている。また、顧客等への対応は基本的には複数名で対応し対応者を一人にさせないこと、該当の有無に関わらず従業員の就業環境が害され就業に支障が生じる場合は相談に応じる等の措置が必要であること、暴力行為は直ちに該当と判断でき犯罪に該当しうること、過去の事案を記録に残し対応案を蓄積させれば企業の財産ともなり得ることが示されている。本資料は企業(雇用者)向けであり、個別事案の法的判断は専門家・所管窓口に確認すること。https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000894063.pdf

甲斐ショウジ

この記事を書いた人

甲斐ショウジ株式会社GMJ 代表取締役CTO兼CAIO

20年超のIT事業経験とGoogle関連事業での実績を基に、多数のAIシステムの開発を主導。AIとMEOで、小さなお店・中小企業の経営を強くする実践情報を発信しています。

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