教えられるのは、店主かベテラン一人。ところが、その人が一番忙しい。だから新人は「見て覚えて」と言われたまま、動けずにいる。
これは、やる気の問題ではありません。人材育成でいちばん多い悩みは「教える人が足りない」ことです。この記事では、ベテランの「見れば分かる」を、指導役が手を離せなくても新人が動ける”見える教材”に変える方法を説明します。写真の撮り方から、スキル表の作り方まで。
この記事で分かること
- 人材育成の最大の壁は「教える人がいない」こと(調査データ)
- ベテランの言葉が新人に届かない理由
- 手順書に足す6つの要素と、写真をChatGPTへ渡すときの線引き
- スキル表(0〜4)で教え忘れを見つける方法

01教える人がいない、が最大の壁
厚生労働省の「令和6年度 能力開発基本調査」によると、人材育成に何らかの問題があるとした事業所は79.9%。その問題点で最も多かったのは、内容や方法ではなく、「指導する人材が不足している」59.5%でした。[1]
「指導する人材が不足」59.5%と「時間がない」47.4%は、つながっています。教えられる人が忙しくて、その場に立ち会えない。小さな店では、これが極端に効きます。ベテランが袋詰めをしながら片手間に教える——それでは、新人は覚えきれません。
この調査は全国の事業所(規模を問わない)が対象で、店舗だけの数字ではありません。ただ「指導役の不足」は、教える人が一人しかいない小さな店ほど深刻に効きます。
02ベテランの言葉は、なぜ新人に届かないか
ベテランは、袋を見ただけで商品に合う大きさを選べます。焼き色を見て並べる場所を変え、列の長さを見てレジに入るタイミングを判断します。本人には当たり前なので、言葉が短くなります。
「それは、こっちの袋」「いつもの感じで並べて」「混んだらレジを手伝って」。
新人には、「こっち」「いつもの感じ」「混んだら」の中身が分かりません。ベテランの頭の中では判断基準がはっきりしているのに、言葉になっていない。これが「見れば分かる」の正体です。教材にすべきなのは、この省略された判断基準です。
03手順書に、6つの要素を足す
すでにある手順書に、次の6つを足すと「見れば分かる」が誰にでも伝わる形になります。
写真をChatGPTへ渡すときの線引き
写真は、入力欄のそばにある「+」やクリップの形のボタンから添付できます(ボタンの位置や形は、アプリの更新で変わることがあります)。ただし、写してよいものと、いけないものがあります。
- 写さない:お客様、伝票、氏名、予約情報、決済画面、その他の秘密情報
- 使ってよい:店の外に出しても問題ない、商品や作業だけを写した教材用の写真
ChatGPTへ画像を渡すのは、あくまで教材を整えるためです。店の内部情報が写り込んでいないか、渡す前に一度確認します。
04スキル表(0〜4)で、教え忘れを見つける
各仕事について、誰がどこまでできるかを次の5段階で記録します。
- 0まだ説明していない
- 1手順を説明できる
- 2一緒ならできる
- 3通常時は一人ででき、例外時に相談できる
- 4手順書に沿って、別の人へ教えられる
この数字は、人格の点数ではありません。誰に何を教えたか、店側が忘れないための記録です。表にすると、教え忘れている仕事(0や1のまま止まっている欄)がひと目で分かります。

この表づくりも、ChatGPTに整えてもらえます。
コピーして使えます
小さな店のスタッフ育成に使う「スキル表」を作ってください。 ・縦(行)に、次の仕事を並べてください。 [品出し/レジ/袋詰め/予約品の受け渡し/電話対応 …店の仕事を貼る] ・横(列)に、スタッフの名前を入れる欄を作ってください(名前は空欄でよい)。 ・各マスには、次の5段階の数字を書き込めるようにしてください。 0=まだ説明していない 1=手順を説明できる 2=一緒ならできる 3=通常時は一人ででき、例外時に相談できる 4=手順書に沿って別の人へ教えられる 表の下に、 ・0や1が多い仕事はどれか ・次に優先して教えるとよい仕事 を短く整理してください。 スタッフの評価やランク付けはしないでください。 これは「教え忘れを防ぐ記録」です。
05教材づくりは、ベテランへの一問一答で始める
ベテランに「マニュアルを書いて」と頼むのは酷です。忙しいうえ、当たり前になっていることは言葉にしにくい。そこで、ChatGPTにベテランへの聞き役をしてもらいます。
コピーして使えます
ベテランスタッフから、ある作業のコツを聞き出して手順書の下書きにしたいです。 私(ベテラン)へ、一度に全部ではなく、1問ずつ質問してください。 対象の作業:[例:パンの袋詰め] 次のことを順に聞いてください。 ・この作業で、新人がいちばん間違えるのはどこか ・あなたは何を見て、正しいか間違いかを判断しているか ・「いつもの」と言うとき、具体的にはどういう状態か ・例外(いつもと違うので迷う場面)はどんなときか ・そのとき、誰に、何を確認すればよいか 私の答えがあいまいなときは、 「たとえばどんな時ですか」と具体例を1つ聞いてください。 6つ答え終わったら、 手順書の下書きと、写真を撮るとよい場面のリストにまとめてください。
質問に答えるだけなら、ベテランの負担は最小限です。答えを手順書と写真リストに変えるのはChatGPTの役目。あとは店主が事実を確認し、写真を足せば教材になります。
06まとめ ── 教える人を増やすのではなく、教えなくても伝わる状態を作る
- 育成の壁は「教える人がいない」 ── 問題の1位が「指導する人材が不足」59.5%
- 省略された判断基準を言葉にする ──「こっち」「いつもの感じ」の中身を書き出す
- 手順書に6要素を足す ── 特に「正しい/間違いやすい」写真が効く
- スキル表(0〜4)で教え忘れを見つける ── 人格の点数ではなく記録
- ベテランへは一問一答で ── 書かせるのではなく、聞き出す
手順書そのものの作り方は別の記事にまとめています。人手が足りないとき、増やすべきは指導役の人数ではなく、指導役がいなくても伝わる教材です。ChatGPTは、その聞き役と清書役になります。
[1] 厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」(2026年7月23日確認)。能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は79.9%。図30「人材育成に関する問題点の内訳」(複数回答)は、指導する人材が不足している59.5%、人材を育成しても辞めてしまう54.7%、人材育成を行う時間がない47.4%。全国の事業所を対象とした調査であり、店舗に限った数字ではない。https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/104-1a.html
